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第4章(4)

「厠とは言わせませんわ」
 私はじたばたしたが、小侍従は上に乗ったまま、着物を脱がそうとする。
 うそ! 私にはそのケはないんだからね!
 起きあがろうとするのだが、重くて動けない。汗と冷や汗が同時に出た。
 玉鬘も見つかっていないのに、今女とばれたら、どうしよう!
 小侍従の手が、私の単にかかった。

 その時だ。
「惟正、惟正はいるか!」
 誰かが、格子戸を荒々しく叩いた。
「夕霧さまが急に倒れられて呼んでおいでだ。すぐに邸に戻れ!」
「はいっ!」
 私は小侍従の下から叫んだ。彼女は露骨にむっとしていたが、のろのろと身を起こした。私は急いで装束を整え、逃げ出した。
 声をかけたのは、右馬の助だった。初瀬から帰ってきたのだ。
 烏帽子は歪み、狩衣の袖も破れた私の格好を見て、彼はにやりとした。
「しどけない姿ですね。お楽しみの最中に失礼いたしました」
 私は怒る気にもなれず、喘ぎながら言った。
「助かったわ、ありがとう」
 内大臣家の外に牛車が待っていたので、後ろから飛び乗ると、目の前に夕霧がいた。
「お姉さま!」
 夕霧はものすごい形相で私を睨みつけた。
「ごめんなさい!」
「宰相の君が知らせてくれなかったら、どうなったと思うんです。本当に女房に言い寄るなんて、全くどうかしてますよ。それもよりによって、小侍従に」
「よりによって、って?」
 私は驚いて聞いた。右馬の助は、黙ってにやにや笑っている。
「有名な女房ですよ。『男漁りの小侍従』ってね。雲居雁には忠実だから使っているようですけど」
「知っていたんなら、教えてくれればいいじゃない」
 私は恨みがましく言った。
「あなたも言い寄る女房が小侍従だとは言いませんでしたよ。大体本当にやるとは思いませんしね!」
 夕霧は一喝した。
「それで姫君は、本物だったのですか」
 と右馬の助が身を乗り出して尋ねた。
「玉鬘じゃなかったわ。右馬の助の方は? 初瀬も駄目だったのね?」
 右馬の助は疲れた様子で頷いた。
「玉鬘の君は、私たちで探します。もうお姉さまは西の対から一歩も出しません。いいですね!」
 夕霧は、私をキッと見据えて言った。 

 翌朝早く、小侍従から手紙が届いた。真っ赤な紙に、香を濃く焚き染めてある。
 あんまりな早帰りじゃないの、もう一度来て、という和歌が書いてあった。
 女だとばれていなかったので、ホッとした。
 返事は、野暮ったい分厚い白い紙に、でかでかと『エロ!』と書いた。何のことやらわからないだろうが。
 それきり、小侍従から手紙は来なかった。


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