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第4章(3)

 次の日の夜、私は小侍従の局へ忍んで行った。うまい言い訳は結局見つからなかった。私のいない間に源氏の君が来たらうまく誤魔化すようにと、宰相の君だけには内大臣家へ行くことを告げていた。
 月が庭を白く照らし出し、辺りは静かだ。時折、ホトトギスが鳴いているのが聞こえる。
 しかし私の頭の中は、どうやって小侍従を納得させて無事に帰るかということで一杯だった。
 局の格子戸を指で軽く叩くと、小侍従が素早く戸を開けた。
「待ってたわ」
 私はぎょっとした。小侍従は夏物の単袴姿で、上半身が透けて見える。
「こ、今夜は月がきれいだよ。夜通し語ろう」
 声がひっくり返ってしまった。
「月なんかどうでもいいわ。夏の夜は短いのよ」
 小侍従は私に抱きついた。重くて、思わず尻餅をつく。
「か、厠に行きたくなっちゃった」
「もう。あなたったら情緒のない方ね」
 小侍従はぶすっとして言った。
 どっちが、と私は心の中で呟いた。
 私は、近江の君の部屋を探した。そのまま逃げても良かったのだが、念には念を、と思ったからだ。
 忍び足で歩いたが、見咎める者はいなかった。
 近江の君の部屋は、案外すぐわかった。明るい灯が襖障子の間から漏れていた。甲高い声も聞こえる。
 私は障子の透き間から、こっそり覗いた。
 若い女が二人、向かい合って座っていた。装束からすると、背を向けて座っているのが女房のようだ。
「姫、もう寝ましょうよ」
「いーえ、まだよ。いいところなんだから。集中してんだから、声かけないでくれる」
 近江の君らしい女性は熱心に双六盤を見つめたまま、早口で言った。長い髪が顔にかかるのがうっとうしいのか、始終掻きあげている。
「さあ、あんたの番よ」
 いい目が出たのか、姫君は顔を上げてにっこりした。
 姫君は私と似てはいなかった。愛嬌のある顔つきで、柏木に似ていないこともない。私は安心して、近江の君の部屋を後にした。
 出口を探して歩きまわっているうちに、背後に不穏な気配を感じた。
「遅かったですわね。他の女房でも引っ掛けていたの」
「違うんだ。迷ってしまって」
「早く局に戻って」
 小侍従は襟首を掴みそうな勢いだ。私はしぶしぶ局へ戻った。
 妻戸に鍵をかける音がした。
「別に鍵なんかしなくても……」
 私が言った途端、小侍従は私を臥所(ふしど)に押し倒した。
「ちょっと待って!」


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