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第3章(5)

「風邪を引いんだって? あんまり私に冷たくするからだよ」
 源氏の君は、翌朝、西の対に渡ってきた。
「ご心配をお掛けしましたが、大丈夫です」
 源氏の君は、私の額に手を当てた。
「お熱はないけど、まだ風邪声だね、気をつけなくては。それはそうと、しばしば夕霧がこちらへ訪ねてくるようだが……」
「実の姉だと思っていて下さるので、不自由がないかと、訪ねて下さっているだけです」
 源氏の君は、疑い深そうな顔をした。
「あまり親しくなるのも考えものだ。間違いがあっても困るから」
 自分のことは完全に棚に上げているので、私は呆れた。
「それより兵部卿の宮からのお手紙は読みましたか」
 源氏の君は螺鈿の細工が施された文箱を私の方へ押しやった。
「是非一度会いたいと書いてあるよ」
「後でお返事はしておきます」
 私は丁寧に、でもきっぱりと言った。
 源氏の君は触るとまた抓られると思ったのか、離れて座っている。
「面白い絵物語を手に入れたのだけど……」
 源氏の君は少しずつ寄ってきて、巻物を広げた。
「これは有名な絵師に書かせたものなんですよ」
 鮮やかな彩色がされた、絵物語だ。私は勉強ばかりしていたので、娯楽に飢えていた。
 源氏の君そっちのけで読んでいると、
「君のように冷たい姫君は、どんな物語を探してもいないけどね」
 と源氏の君は、恨みがましげに言う。
「源氏の君のように、色めかしい親も登場しませんけど……」
 私があっさりと言うと、源氏の君はばつが悪そうな笑みを浮かべた。
 今のところ、源氏の君は権力を振りかざして、性的関係を迫るということはしない。
 派遣社員だと簡単に辞めさせられるので、卑猥なことを言われたり、迫られたり、触ったりされる被害が後をたたない。社内にセクハラ対策の委員会ができたので相談したら、被害を受けた派遣社員が辞めさせられたというケースを、テレビで見た。
 そう考えると、こっちの顔色を窺いながら、口説いている源氏の君はまだまだ可愛げがあるのだ。
 物語がクライマックスにさしかかった所で、源氏の君はさっと巻物を仕舞った。
「続きはまた明日。じゃ~ね」
 源氏の君は悪戯っぽく笑って、手を振って帰っていった。


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