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第2章(1)

 次の日、源氏の君から私の許へ手紙が届いた。
 手紙を読むというのも久しぶりだ。上質な地の厚い紙がきれいに折り畳まれている。芳しい香りがした。紙にお香を焚きしめてあるのだろう。みやびだわね~、とうっとりしたのも束の間、手紙を開いてみて、私は呆然とした。
 ゼミで勉強した仮名文字に似てはいるが、……読めない! 仮名や漢字を取り混ぜて、たらたらと続けて書いてある上に、達筆なのか、一文字もまともに読めない。
 これは、『う』かな。次の文字は、えーっと『は』、いや『に』だっけ?
 私は脇息に寄りかかって、頭が痛む振りをした。
「気分がすぐれないの。右近、代わりに読み上げてちょうだい」
 内容は、養女として大切に育てるので、六条院に身を寄せるように、というものだった。手紙と一緒に、たくさんの着物も届けられていた。朱色、桜色、黄色、萌黄、藍色……。模様がくっきりと織り出されたものもあり、私は再びうっとりとした。
「姫さま、源氏の大臣にすぐにお返事を」
 右近の声が、私を現実に引き戻した。
「源氏の君に引き取られれば、自然にお父上の内大臣のお耳にも入るはず」
 右近はしたり顔で、自分の言葉に頷いている。
 返事を書きたいのは山々だが、私にはとてもあんな文字は書けない。
「頭がガンガンする。代筆しておいて」
 私は脇息につっぷした。
「そんな、姫さまがお書きにならなければ意味がありませんわ」
 右近はぐずぐず言っていたが、私が無視していると、溜め息をついて、文机に向かった。


 九月も末になり、私が六条院に移る日が近づいてきた。わくわくする反面、不安だった。平安の姫君に転職するのは、当たり前だが初めてなのだ。貴族の姫君にはいろいろと教養が必要だ。
 まず和歌が読めること、仮名文字が書けること(この時代、漢字は男のものなので、女は書けなくても構わない)、琴(きん)、筝(そう)、和琴(わごん)のうち最低一つが弾けること。それと染色の技術やお香の調合方法も出来た方がいい。威張るわけではないが、私は全部できない。
 この時代の常識すら覚えたばかりだ。
 着物の襲ね色目(かさねいろめ)が、季節ごとに決まっている。今の時期だと、りんどう(表が蘇芳・裏が青)や紅葉(表が赤・裏が濃赤)などだ。
 髪を洗ってはいけない月や爪を切ってはいけない日があるのも、驚いた。
 右近は私が毎日髪を洗うのを見て、「九月は洗髪には忌むべき月と申しますのに」と顔をしかめたが、ちょっとうらやましそうだ。
「一ヵ月も髪を洗わないなんて、考えられないわ」
と反論すると、右近は、「一体乳母はどうして姫さまを田舎びた方にお育てしたのでしょう」と嘆くのだった。


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